ITS 編集部
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ガートナージャパンがIT化に取り組む企業に向け、「クラウドの2026年問題」を訴求している。どういうことか。同社の名物アナリストの話から解き明かしたい。
「2026年はクラウドコンピューティングが世に出て20年。この間、『クラウドはまだ早い』と何も手をつけてこなかった企業は、いよいよ時代に取り残されることが顕著になってくる」
ガートナージャパン ディスティングイッシュトバイスプレジデント アナリストの亦賀忠明氏は、同社が11月13~15日に都内ホテルで開いた「Gartner IT Symposium/Xpo 2023」でのクラウド最新動向をテーマにした講演で、IT化に取り組む企業に向けてこう警鐘を鳴らした。これが、「クラウドの2026年問題」である。同氏によると、「(現在、クラウド市場をリードする)Amazon Web Services(AWS)が、創業して活動を始めたのが2006年。これを起点にした」という。
物流分野を中心とした「2024年問題」、企業のIT化で取り沙汰される「2025年の崖」に続く大問題になるかもしれない。同氏の話を聞いて、筆者もそう強く感じたので、今回はこの問題を取り上げたい。
クラウドの2026年問題が起こり得る可能性として、亦賀氏は次の6つを挙げた。
こうした可能性を挙げた上で、同氏は「クラウドの基本についての理解度を再点検する必要がある」と指摘した。
上記の6つの中で、「30%」より割合がもっと大きいのではないかと思われるのが、6つ目の「SI、仮想ホスティングとクラウドの違い」だ。それを分かりやすく示したのが、図1である。同氏は違いについて、「SIは手組みによる構築、仮想ホスティングはサーバ分割の集合、クラウドは数百種のサービス部品の集合体」と説明し、「これらは全く別物。20年たってもこの違いが分からないというのは致命的だ」と警鐘を鳴らした。
ここで、クラウドに関するこれまでの動きを少し振り返ってみよう。
図2は、亦賀氏が「AWS創業」を除いてキーワードをピックアップしたものである。この図を示しながら、同氏が話題に上げたのが2003年にIT業界に対して放たれた「Does not matter」、つまり「ITは重要でない」という言葉だ。同氏はこの言葉が契機となって「Does matter」にしていこうという機運が高まったとの認識を示した。
加えて、同じ頃、ITを手組みではなくユーティリティーを用いて構築するという新しいITスタイルも登場した。同氏はこの動きについて、「IBM、富士通、NECなどのシステムインテグレーター(SIer)が、こぞってそういう新しいITスタイルを目指した取り組みを行っていた。この動きもクラウドに通じるものがあった。ただ、クラウドと発想が大きく異なったのは、SIerはクラウドをSIの部品として捉えてしまったことだ」と見る。興味深い洞察である。
では、クラウドの2026年問題に立ち向かっていくためにはどうすればよいのか。
亦賀氏は、「これからダイナミックな産業革命が起きる。それに備えることだ」と言う。どういうことか。「これまではどの業務にクラウドを活用するかという考え方だった。しかし、これからはデジタル小売業、デジタル製造業、デジタル金融業といったようにクラウドが前提のビジネスになっていく。まずはそうした発想に切り替えないと、企業として衰退し消滅していくだろう」と説明した。筆者も取材を通じて、この発想の転換にはまだまだ多くの企業が到達していないように感じている。
従来のITとクラウドはどこが違うのか。どう移行すればよいのか。この疑問に答えたのが、図3である。この図の上段に記されている「スケーラブルかつ弾力性のあるITによる能力を、インターネット技術を利用し、サービスとして企業外もしくは企業内の顧客に提供するコンピューティングスタイル」というのは、ガートナーによるクラウドの定義だ。
亦賀氏はその定義を踏まえて、「重要なのは、クラウドは単にテクノロジーの話だけでなく、テクノロジーを活用した『コンピューティングスタイル』であるということだ。従って、従来のシステムをクラウドへ移行するだけでは、クラウドのメリットをきちんと享受できない。クラウドへはスタイルチェンジが必須だ。とはいえ、多くのユーザーで全てのシステムをすぐに移行するのは、現実的に難しいだろう。できるところからできるだけ早く新しいスタイルに変えていくことが肝要だ。クラウドのメリットはビジネスのメリットに直結する。産業革命にどんどん挑んでほしい」と、エールを送った。
筆者の解釈では、2025年の崖は「モダナイゼーションを急げ」という警鐘だ。その選択次第では「クラウドの2026年問題」が立ちはだかることになりそうだ。亦賀氏の言葉を借りて、「産業革命に備えよ」と重ねて記しておきたい。
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