ITS 編集部
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サマリー:デジタル・トランスフォーメーション(DX)の必要性が叫ばれて久しいが、体制や人材、リソースが潤沢な大企業に比べ、中規模企業がDXを成し遂げるのは難しいと見る向きもある。本稿では、中規模企業がDXを成功させるために検討すべき5つのポイントを掲げる。DXの成功には、5つのポイントすべてを戦略に結びつけることが重要だが、そのために何を行うべきかも解説する。
中規模企業が変革を実現し、その恩恵を享受する方法
この数年間、あらゆる規模の企業が前例のない試練と機会、そして進化を経験してきた。中規模企業もその例外ではない。コロナ禍をきっかけに、多くの取り組みが加速し始めたのだ。ほんの数年前までは現実離れした夢にしか思えなかったことが、確かな現実になりつつあるケースもある。そうした中で、飛び抜けて大きな変化を生み出し、計り知れない影響をもたらしている要因が、デジタル・トランスフォーメーション(DX)である。
中規模企業におけるDXは、大企業とは異なる
筆者が所属する全米中規模企業センター(NCMM)は、中規模企業におけるテクノロジーの導入とデジタル関連の変化について、精力的にモニタリング調査を行っている。この調査は、コロナ禍前の2019年に始まったものである。なお、NCMMでは、年間売上高1000万ドル~10億ドルの企業を中規模企業と定義している。たしかに、極めて広い定義ではある。それでも、この定義により、GDPと雇用面で米国の民間企業の中位の3分の1に分類される会社を対象にできる。
テクノロジーにどれくらいの投資を行っているかは、中規模企業の中でも会社の規模や業種によって大きく異なる場合がある。しかし、デジタル化された未来へ向けて歩み出そうとする際に、あらゆる中規模企業のリーダーがしばしば直面する問題がいくつかある。
もしかすると、最も見過ごせないのは、資本、人材、時間などのリソースの問題かもしれない。中規模企業では、大企業に比べてリソースが制約されている場合が多い。大企業におけるDXの取り組みはたいてい、専門の部署やチームによって戦略的にマネジメントされている。一方、小規模企業はそもそもDXを実行する必要性が乏しい。その結果、DXを推進するためのリソースの問題は、中規模企業特有の問題になっているのだ。
もう一つの問題は、ほとんどの場合、「流行」のデジタルシステムが(1)あまりに高価だったり、(2)規模が目の前のニーズに適していなかったり、(3)導入するために、場合によっては維持管理するためにも、多大なサポートが必要とされたりすることである。
変革を成功に導くための計画を立てる5つのカギ
では、中規模企業のリーダーチームは、厳しい制約の下でテクノロジー面で変化を成し遂げる方法を、どのように検討すればよいのだろうか。NCMMの調査によると、中規模企業が自社に適したテクノロジーを導入して、テクノロジーへの投資を回収しようとする場合に、検討すべき重要な要素がいくつかある。それらの要素は、デジタル化を検討し始めたばかりの企業にも、すでにデジタル化に向けて歩み始めている企業にも共通するものだ。
1. プラットフォーム:あなたの会社は、まったく新しいものに投資しようとしているのか。それとも、すでに存在するシステムに新しい能力を追加しようとしているのか。いずれの場合も、イノベーション、戦略開発、そして日々のマネジメントの分析に対する予算を増やせば、長い目で見て投資を回収しやすくなる。
2. 予算:投資できるリソースに限りがあり、しかも、金利上昇により資金調達の難度が高まっていてもおかしくない状況において、十分な予算が適切な形で配分されているか。導入しようとしているデジタルシステムの種類によっては、投資を回収するまでに長い期間を要する場合があることを忘れてはならない。セキュリティ、効率、生産性、分析など、重要な要素をいっそう重視する場合、どのようなトレードオフの選択を求められる可能性があるのかを考えよう。
3. プロセス:検討中の投資は、顧客および納入業者の活動と整合性があるか。テクノロジーを導入することの副次的恩恵の一つは、サプライチェーンが簡素化されることを通じて、サプライチェーン全般の透明性を確保できることだ。したがって、サプライチェーンの上流と下流のパートナー企業が行っていることと整合性がなければならない。コストや業者だけを基準に、取り入れるシステムを選んでも好ましい結果につながらない可能性がある。主要な機能をプロセスマッピングして、どの点を変更する必要がありそうかを検討すべきだ。
4. 人材:あなたの会社は、テクノロジーの導入段階だけに留まらず、その後のサポートと運営の段階で必要とされるデジタルスキルを備えた人材を擁しているか。最新の「NCMM中規模企業指数」によると、90%以上の中規模企業は、現時点でデジタルスキルのわずかな不足、もしくは大きな不足に直面していると回答している。短期的には、実行段階でパートナーやコンサルタントを活用してそのギャップを埋めることも可能だが、長期的な人材プランをじっくり検討することも怠ってはならない。
5. リスクマネジメント:新しいテクノロジーが登場すると、新しいリスクが生まれる。あなたは、主なリスク要因の評価を行い、自社の最も重要なデジタル資産を守るために適切なセキュリティ上の対策を講じているか。信頼できるパートナーの力を借りれば、死角になっている要素を洗い出したり、新しく生まれる脅威を検出したりするうえで大きな進展があるだろう。
すべてが戦略に結びつくようにする
以上の5つの点に関する検討結果は、当然ながら組織によって異なる。しかし、細かい状況の違いに関係なく、中規模企業のリーダーたちは、デジタル化へ向けて歩みを進めるに当たり、いくつかのより大きな戦略上の問いを改めて検討する必要がある。たとえば、以下のような問いだ。
・デジタルテクノロジーを活用してビジネス上の価値を創造することに関して、我が社は業界のトップに立つことをどれくらい強く望んでいるのか。
・我が社は、ビジネスのどの領域で業界の先頭を走っているのか。そして、どの領域で競合他社に後れを取っているのか。
・我が社のデジタル面に対するビジョンは、明確で包括的なものになっているか。それは、社内と社外の従業員と顧客と取引業者に広く理解されているか。それは、戦略上の意思決定の指針として活用されているか。
・我が社は、デジタルテクノロジーを活用して競争力を獲得し、売上げを増やし、資本をより効率的に用いるための戦略を持っているか。
以上のことを慎重に検討し、これらの点について組織全体ですり合わせを行うと、目を見張る成果を得られる場合がある。NCMMの報告書『デジタル・トランスフォーメーションを実行すべき理由』によれば、DXのプロセスをきわめて戦略的に推進できているという自己評価を持っている企業は、そうでない企業に比べて、際立って成長のペースが速いという。
この報告書の下敷きになった調査でもう一つ明らかになったのは、中規模企業の中でも比較的規模の大きい企業(年間売上高1億ドル以上)が、デジタル化への道のりで先を進んでいるということだ。規模の大きい会社ほど、リソースに恵まれていることを考えれば、この点は意外でない。
DXが持つ可能性を考慮すれば、変革のマネジメントは必須である
誤解してはならないことがある。テクノロジーの変化に適応し、新しいシステムを日々導入することは、規模の大きな企業にとっても気が遠くなるほど難しい場合があるということだ。適切なマインドセットと戦略的アプローチを持ち、必要に応じて外部のリソースを活かすことが重要である。そうすれば、中規模企業でも、広い視野で変化と向き合い、DXの恩恵のすべてとは言わないまでも、恩恵のほとんどに浴すことができる。さらには、競争が激化する世界において自社の事業の効率を高め、コラボレーションを強化し、成長を促進できる可能性さえあるのだ。
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/9686
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