デジタル化が急速に進む日本企業。経営の根幹を担う経理部門も例外ではない。ただし、企業の成長につなげるには、単なるデジタル化を目的にするのではなく、「真のDX」を実現しなければならない。

6月15日に開催されたWebセミナー「デジタル化のその先へ 事例企業に学ぶ『業務変革』のすすめ」(マイナビ TECH+セミナー運営事務局主催)では、生産性向上、そして高付加価値業務へのリソース集中による企業変革に向けた具体的なアクションについて、有識者および主催者側の経理部門・情報システム部門・営業部門それぞれの視点から語られた。

本稿では、マッキンゼー・アンド・カンパニー マッキンゼー・デジタル部門 パートナーの黒川通彦氏による基調講演「“変革”か“衰退”か。日本の経営課題を解決する、真のDX成功の要諦」の様子をレポートする。

「デジタル化」止まりの日本企業

コロナ禍を経てこの3年間で日本企業のDXへの取り組みは大きく前進した。ソニーやコマツ、PayPayなどといったDXの成功事例も出てきている。しかし黒川氏は、情報処理推進機構が公表する『DX白書2023』などの結果を基に、米国と比較するとまだ十分とは言えないと指摘する。

「アナログデータをデジタル化するというところまではできていますが、業務自体を変えた、あるいはデータを使って新たなサービスを立ち上げたといったような、企業変革や業務変革に結びついているケースはまだまだ少ないのです」(黒川氏)

  • マッキンゼー・アンド・カンパニー マッキンゼー・デジタル部門 パートナー 黒川通彦氏

2022年にマッキンゼーがグローバルで行ったCEOに対するアンケート調査によると、84%のCEOはイノベーションによるトップライン成長ができていないことを経営課題としていた。また、80%のCEOは、自社のビジネスモデルがリスクにさらされていると感じていたという。自社の成長に向けた取り組みに満足していると回答したCEOは6%ほど。主な要因は、この3年間でサプライチェーン問題、急激なインフレ、人材不足、消費者行動の変容などといった大きな社会変化 が起きたことにあると考えられる。

こうした経営課題に対してまず取り組むべきことが、データ活用である。「例えば、データを利用したサプライチェーンの効率化、AIを活用した投資判断、従業員の定着化や企業価値向上に向けた取り組みなどを行い、危機をチャンスに変えた企業が成長している」と黒川氏は説明する。

全社戦略を立て、DXで実行する

マッキンゼーは、危機をチャンスに変え成長を実現した企業の取り組み事例を分析し、企業成長のレシピとしてまとめている。

  • 企業成長のレシピ

1つ目は、挑戦するマインドセットと企業文化の醸成だ。黒川氏は、経済情勢が厳しい今だからこそ変革していくべきという強いメッセージをトップから発信すること、そして、社会・自社・取引先という三方良しの世界観を実現していくことの重要性を指摘した。

2つ目は、成長に向けた戦略だ。コア領域を拡大しつつ、新規事業の創出を加速させる、あるいは、隣接領域へ参入するといった方針が考えられる。

そして、3つ目はこれらを実現する優れた実行体制だ。オペレーション基盤を構築し時代に合った業務プロセスに変えること、戦略的な買収・提携・エコシステムを構築することのほか、デジタルR&D、サプライチェーン、CXマーケティング、セールス、コーポレートといった新しい組織能力を、デジタルを活用して構築していくことこそが、まさにDXが求められる領域となる。

日本企業が注力すべき4つの領域とは

黒川氏によると、「真のDX」を進めるにあたって今後日本企業が注力すべき領域は4つあるという。

  • 日本企業が再成長するための4つの重点領域

まずは上図中Aの「データの利活用」の領域について。一例を挙げれば、CFOに対してデータ駆動型経営への期待が高まっており、財務部門および経営全体のDXが必要となっている。具体的には、ゼロベースでの予算策定による投資効率の向上、続いて、経営が意思決定できるようデータを収集・分析する経営ダッシュボードの構築、これを用いて計画から実績管理までを細かく実行するという流れで進めていくこととなる。

一方で、日本企業の財務は、レポートの作成やデータ収集・抽出・確認・修正・整形などに多くの時間を費やしており、高付加価値業務に使える時間が不足しているという調査結果もある。黒川氏は「データを使って経営の意思決定を導くことができていない。低付加価値業務をデジタルで自動化していく必要がある」と指摘する。マッキンゼーの調査によると、財務部門の4割の業務はDXで完全自動化可能、2割近くは大幅に自動化が可能だという。

  • 財務部門における自動化の可否

次にBの「新規事業」だ。トップパフォーマーとその他企業を比較すると、1年前に存在しなかった商品・サービスの売上シェアは倍程度の違いがあるという。これは、トップパフォーマーがデータ経営を土台にして新規事業に取り組んでいるためである。

  • トップパフォーマーとその他企業の新規事業の状況

続いて、Cの「人材」。トップパフォーマーは7名以上の経営幹部がテクノロジーに精通しており、正しく早い投資配分の意思決定を行っているという。この調査結果から、CDOやCIOといった直接的にデジタルに関わる経営人材に加え、CEO、COO、CSO、CFO、CHRO、執行役員まで含めた人材がデジタルやテクノロジーの知見を持っていることの重要性がうかがえる。

  • トップパフォーマーとその他企業における、テクノロジーに精通した経営幹部の人数割合

そして最後にDの「テクノロジー」。企業はパブリッククラウドへの移行をはじめ、アーキテクチャを刷新してスピードを出すことを狙う必要がある。DevOpsやMLOpsなど高速反復検証プロセスの整備、自動化やソフトウェア開発を内製化していく動きも高まっている。

  • テクノロジーのアップデート状況

持続的に成長する企業に生まれ変わるために

こうして「真のDX」に取り組んでいくことで、売上増加、コスト削減、ビジネスリスク削減という効果が生まれるだけでなく、ひいては企業価値そのものを高めていくことができるという黒川氏。「持続的に成長していく企業に生まれ変わっていける」と語る。そのためには、経営層が旗振りをして企業文化やマインドセットを変革すること、そして自社のコアのビジネスに加え、新たに取り組むべきことを定めてDXを一気に実行していくことが重要であるとした。