[コジーの今週気になるDXニュースVOL20231129-01] 総務省に聞く、自治体DXは「本当に進んだ」のか?現在の課題やガバメントクラウド進捗:ビジネス+IT

地方自治体にとってDXを進めることは、少子高齢化や過疎化といった地域課題を解決するために欠かすことのできない改革であり、もはや避けられないプロセスと言える。では、地方自治体におけるDXの取り組みは具体的にどのように進んでいるのか。そして、DXが進むことで、地方自治体はどのように変わる可能性を秘めているのか。総務省の自治行政局で地方自治体のDX推進の音頭を取る君塚明宏氏と地方公共団体の経営・財務マネジメントに関するアドバイザーを務めるNTTデータ経営研究所 大野博堂氏に地方自治体におけるDXの現在地を聞いた。

構成:ビジネス+IT編集部 松尾慎司、髙橋 諒、執筆:井上猛雄、撮影:大参久人

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NTTデータ経営研究所の大野氏(左)と総務省の君塚氏(右)が自治体のDXについて議論した

デジタル田園都市国家構想で押さえたい「3つ」のポイント

──岸田政権が掲げている「デジタル田園都市国家構想」はどのような概念なのか、そして同構想についてどのように捉えていらっしゃるかを教えてください。

大野博堂氏(以下、大野氏):内閣官房で公表しているデジタル田園都市国家構想の定義は「高齢化や過疎化などの社会課題に直面する地方にこそ新たなデジタル技術の活用ニーズがあることに鑑み、デジタル技術の活用によって、地域の個性を生かしながら地方を活性化し、持続可能な経済社会を実現するもの」とされています。その上で以下の要件が3点ほど示されています。

  • (1)地域の「暮らしや社会」「教育や研究開発」「産業や経済」をデジタル基盤の力により変革する

 

  • (2)「大都市の利便性」と「地域の豊かさ」を融合した「デジタル田園都市」を構築する

 

  • (3)「心豊かなくらし(ウェルビーイング)と「持続可能な環境・社会・経済」を実現する

国は、高齢化・過疎化に直面する地方にこそ、デジタルで解決可能な課題があると考えており、従来の自治体職員による現場力や地域コミュニケーションによる改革では限界が見えてきたと捉えています。そのため、デジタル技術を導入することで、社会課題の解決への活路を見出そうとしている、というのが「デジタル田園都市国家構想」が必要とされる背景にあると思います。

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NTTデータ経営研究所
パートナー・金融政策コンサルティングユニット長
大野博堂氏

とはいえ、私の率直な感想としては、スマートシティや都市OSなど、類似するキーワードが多々あるため、それぞれのキーワードの本来の意味が自治体や地域事業者に伝わり切っていないように感じています。

現在、総務省も課題感を持ち、セミナーなどを通じて、こういったキーワードが本来意味するところと、補助金の具体的な要件などについて理解や意識の浸透に取り組んでいます。

また、人口ビジョンを踏まえた「地方版総合戦略」を自治体が数年おきに策定してきましたが、今般、デジタル田園都市国家構想を念頭に対処方針を打ち出すことが策定の要件に求められるようになりました。これは各自治体にとって非常にインパクトがあることで、今後は自治体のデジタル化について一気に意識啓発が進むと見ています。

デジタル田園都市国家構想と「地方創生」の関係とは

──総務省としてはデジタル田園都市国家構想をどう捉え、どう関わっているのかを教えてください。

君塚明宏氏(以下、君塚氏):デジタル田園都市国家構想は、本質的には「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を抜本改訂するストーリーから来ているものです。同戦略は地方創生の文脈として続いており、総務省ではローカルスタートアップを全国で底上げする案件をつくったり、地域おこし協力隊に地方活性化を担ってもらっていました。そこにデジタルの力を活用して継承・発展させていくという考えのもとデジタル田園都市国家構想総合戦略が策定されたのです。

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総務省 自治行政局
行政経営支援室長 兼 地域DX推進室長
君塚明宏氏

ですから、根底にある「仕事をつくる」「人の流れをつくる」という点は変わっていません。全国どこでも利便性を確保したり、自治体職員の業務を効率化したり、そこにデジタルの力が加わって、地方における社会課題の解決につなげていけるという文脈が入ってきたと受け止めています。

また、デジタル田園都市国家構想の推進においては、マイナンバーカードが普及してきたことも大きいと感じています。同構想の実現には、デジタルで本人確認を行う認証の仕組みが必要です。カード認証の環境が整い始めたことが、デジタル田園都市国家構想で全自治体がデジタルを生かした課題解決に踏み出す足掛かりとなったと考えています。

総務省の役割は、これらを実現する基盤づくりを整備することになります。たとえばネット環境を整え、光ファイバーの敷設やデータセンターの整備、ローカル5Gなどの新規格の研究などを進めることなどがベースになっています。

またそれ以外にも、デジタル人材の確保・育成や、地域おこし協力隊などの外部移住者と地域を結びつけるために、テレワークなどのデジタルツールを活用する取り組みなどの話も出てきています。

コロナ禍で自治体DXは本当に進んだのか?

──日本では地方でなかなかデジタルが浸透しないという課題を長らく抱えていましたが、コロナ禍はDXを推進する上で大きな追い風になりました。

君塚氏:コロナ禍になって緊急事態宣言が発令されてからは、単にデジタル化だけを進めるというよりも生活スタイルそのものや人と人の関わり方、あるいは仕事そのものを見直す「トランスフォーメーション」の部分を進めることを余儀なくされました。

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たとえば、行政手続きのデジタル化を進めていても、書面での手続きも従来どおり受け付けるという状態では「ダブルトラック」状態で仕事量も結局減らない、というのがコロナ前でしたが、デジタルにすべて移行できるように業務を見直していくという考えに意識が変化してきたのが、ここ数年の流れだと感じています。

大野氏:中央省庁におけるDX改革が目覚ましいことは、事業者側である我々は身に染みています。たとえば、概算見積りで社印や代表者印が不要になり、電子契約がデフォルトになりました。

とはいえ、地方自治体では、自治体ごとに取り組みはまだまばらです。進んでいる自治体は、住民との対面チャネルを非接触・非対面に切り替えて一気にデジタル化に向かいました。

その一方で、インクルージョン(社会包摂)の問題もあり、高齢化が進む自治体ではデジタル手続きに住民が適応できないこともあります。したがって住民対応に関しては、デジタルとオフラインの併用が欠かせないという実態があり、そのバランスが「これまでよりもデジタルを重視する方向に変わってきた」というのがコロナによる変化だと考えています。

君塚氏:コロナ禍で非接触・非対面を進めようとしたとき、システム間の連携がうまく取れなかったという問題も表面化しました。コロナ禍により、技術面での遅れもわかったということです。

大野氏:そうですね。実際の情報システムや回線、端末は、各省庁の所管業務ごとに細かく縦割りで機能が実装されています。そのため、業務内容が違う隣の課との情報連携すらできないという問題が存在します。今後は、個人情報保護等条例(目的外利用)の整備と連携基盤構築などが課題となりそうです。

ガバメントクラウドの進展状況とは

──ガバメントクラウドも注目を集めていますが、どのようなものですか?

大野氏:ガバメントクラウドは、自治体も利用可能な政府共通クラウドサービスの利用環境です。従来は、自治体ごとにITベンダーやメーカーが情報システムをオンプレミスで開発してきましたが、今後は自治体が利用する情報システムの仕様が標準化・共通化され、その上で、ガバメントクラウド上で利用できることになります。

君塚氏:ガバメントクラウドは地方自治体のシステム標準化・共通化の取り組みとも関連しています。これまでは自治体ごとにオンプレミスでサーバを置いて、それぞれがカスタマイズを行い運用してきました。そのため、国による制度改正があると、その対応のために自治体ごとにシステム改修作業やコストが発生してしまう、という実態がありましたが、ガバメントクラウドの実装によりそうした状況が変わると期待しています。

一昨年、システム標準化に関する法律が成立し、地方自治体は2025年度末までに戸籍や子育て関係など、国民の生活に身近な20業務を標準化することが法律で定められ、それに向けてシステム移行が進められています。

しかし、政令市のように大きな自治体などは早い段階から独自に情報システムを導入してきたため、新しいシステムへの移行に苦労しています。地方自治体の標準準拠システムへの移行経費については、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に基金を設置し支援をしており、現在、基金にさらなる計上を行うため総務省において別途予算要求を行っているところです。

大野氏:自治体ごとに進捗状況は異なりますが、2022年10月にガバメントクラウドの4つの対象サービス(AWS:Amazon Web Services、Microsoft Azure、GCP:Google Cloud Platform、OCI:Oracle Cloud Infrastructure)が決定し、神戸市や倉敷市など複数の自治体が先行自治体として選定されました。現在、ガバメントクラウドへの移行に係る課題の検証などが行われています。

その検証作業を通じて得られた知見を踏まえ、2025年に自治体の基幹系システムの標準化・共通化システムへの移行が行われます。ただ現状では、予定どおりに進んでいないところもあるため、国も現実的な路線に修正するかもしれません。それなりにコストはかかりますが、それ以上のものが得られるのが、このガバメントクラウドの移行措置になります。

──具体的にどんな取り組みがありますか? そのメリットや特徴も教えてください。

大野氏:たとえば熊本地震では、大津町など5つの自治体の庁舎が倒壊したり、倒壊の危険性が高いといった理由で封鎖されたりしました。その結果、庁舎内に設置していたサーバや、そこに格納されていた住民データなどが喪失する事案に見舞われました。

ガバメントクラウドへ移行すると、少なくとも堅牢なデータセンターを選べるようになり、さらにバックアップ設備もリージョンで設定されるため、より災害時のレジリエンスに優れたインフラになるのが特徴の1つです。

また、強固なセキュリティやネットワークの利用が可能になります。ガバメントクラウドは「ISMAP」(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)の要件を満たす事業者のみが採用されため、セキュリティ環境も現状より格段に向上するでしょう。

これまで自治体は、ITベンダーが提供する情報システムに依存するベンダーロックインの状況でした。今後はガバメントクラウド上の仕様が共通化され、ベンダー変更も容易となることから、ITベンダー間での健全な競争環境も生まれ、自治体が負担するITコストの平準化や低廉化が期待されます。

また、政府から正式な情報は公表されてはいませんが、経済安全保障上の問題から、4つの外資系クラウド事業者だけでなく、将来的に国内のIT事業者が構築する新しいクラウドの提供も計画されているようです。

ITS 編集部

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