ITS 編集部
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顧客データプラットフォーム(CDP:Customer Data Platform)は、複数の顧客データを一元管理し、マーケティングに活用するシステムである。しかし、一元管理したデータをうまく活用できず、「カスタマーエクスペリエンス(CX)を向上させる」という目的が達成されていないケースは少なくない。どうすればこの問題を解決し、CDPから最大の価値を引き出すことができるのか。組織全体でCDPを活用する方法、適切なチーム編成をするためのベスト・プラクティスについてガートナーのシニア ディレクター, アナリスト、川辺謙介氏が解説する。 執筆:畑邊 康浩
<目次>
1・なぜ有用なのか、CDPで解決できる問題とは
2・データ収集に投資するほどメリットは少なくなる
3・ベンダーごとにCDPを「使い分ける」時代に
4・マーケティングにとどまらないCDPの活用法
5・CDPと他システムとの機能重複、どうとらえるべき?
6・今後のCDPトレンドに関する3つのキーワード
CDPとは、マーケティングなどのチャネルから取得した企業の顧客データを統合し、マーケティングとカスタマーエクスペリエンス(CX)のユースケースを支援するソフトウェア・アプリケーションを指す。メッセージ、オファー、顧客エンゲージメント活動のタイミングやターゲティングを最適化し、個人レベルの顧客行動の経時的な分析を可能にするものだ。
「従来はマーケティング中心に使われてきたが、取得できるデータが充実してくるにつれて、さまざまな部門でCDPを使いたいというニーズが増えてきている」と川辺氏は話す。
CDPの基本的な機能は大きく分けて(1)データ収集、(2)プロファイル統合、(3)セグメンテーション、(4)アクティベーション(実行)の4つである。
「図の点線部分、オプションのところが、ベンダーによって違いが生じます。それによってCDPは混乱をきたしているというのが現状ではないかと思います」と川辺氏は指摘する。
CDPではないマーケティング・CXソリューションをすでに導入している企業から見ると、CDPには重複する機能があるため、「新たにCDPを導入すべきなのか」と迷う要因にもなっている。
CDPが持つさまざまな機能の中で比較的新しく、そして注目されているのが、1人の顧客の行動を追える機能だ。また、一元的な顧客情報の整理も課題の1つとして認識している企業が増えており、そのための「360度の顧客ビュー」を実現するツールとしてCDPが活用されている側面も大きい。
「360度の顧客ビュー」とは、1人の顧客を中心に、企業と顧客(見込み顧客含む)との関係に関連する必要なデータすべてを取り込んだデータセットのことだ。これに対し川辺氏は、「本当に必要なのでしょうか」と問いかける。
顧客を360度から把握するためには、複雑な図式が必要だ。企業内には、上流としてCRMやERPなどの業務系システムのほか、マルチチャネル・マーケティングハブといったマーケティング系のシステム、分析系のデータ基盤・システムがあり、それらからもデータを取り込む必要がある。その他にも社外のデータ、たとたとえばBtoBであれば企業情報や、BtoCならソーシャルメディアの情報、IoTで位置情報を取得するなど、多種多様なデータが収集の対象となり際限がない。
この問題に対して、川辺氏は興味深い調査結果を紹介した。ガートナーが企業の顧客データのリーダーに対して調査を行ったところ、45%の人が「データ収集に投資すればするほど、そのメリットは少なくなる」と回答しているのだという。
企業は1人の顧客を中心に360度、あらゆるデータを取り込んでいこうと取り組んでいるが、データが少ないうちはあまり力をかけずにデータを増やしていき、それによって確かな成果が見られる。ところが、ある程度のデータが集まってくるとデータ収集の労力が大幅に増加し、コストに対してのリターンが減少してしまうのだ。
ガートナーでは、2026年までに、360度の顧客ビューを追求する企業の80%はこれらの取り組みを断念するものと予測している。
「旧来の『データを多く集めれば成果が出るだろう』という考え方は時代遅れになるでしょう。データプライバシーに関する規制・制約も強まっており、それを無視すると顧客の信頼を損なうなどの弊害もあります。時代に合わせた、より有効なCDPの使い方が必要になります」と川辺氏は説明した。
ガートナーでは、CDPベンダーをタイプ別で4つに分類している。「管理するのがITかマーケターか」「データの管理寄りか、マーケティングの実行寄りか」の2軸で捉えると分かりやすい。
1)CDPエンジン/ツールキット
データの管理に主眼を置き、業務に役立てるというものではない。オープンソースのものを含めるといろいろなものがある。日本のベンダーは少ないが、ないわけではない。マーケターを中心とするエンドユーザーが扱うというよりは、IT部門が管理するもの。
2)マーケティングデータ統合
データ統合に主眼を置くベンダー。実行能力はそれほど高いわけではない。ただ、エンドユーザーであるマーケティング部門などのエンドユーザーが使いやすくなっている。日本で普及しているものではTealium(ティーリアム)などがこれに分類される。
3)スマートハブ
より実行力を高めたもので、かつマーケターが使いやすいタイプのものを、ガートナーではスマートハブと名付けている。万能型だが、マーケティング業務の支援が中心のものが多い。日本でも普及しているものではトレジャーデータが代表的。
4)マーケティングクラウド
マーケティング業務を実行するためのソリューション。実行力が高い半面、複雑な業務はマーケターが扱うのが難しいため、IT部門の力が必要な場面もある。アドビやセールスフォースなどのメガベンダーが得意とする領域で、CRMソリューションを持つセールスフォース、マイクロソフトは既存顧客と連携したマーケティング機能が強い。
ガートナーでは、マーケティングテクノロジーリーダーに対して2020年と2022年に調査を行っており、利用しているCDPベンダーを聞いたところ、2年間で変化が見られた。
それは、「スマートハブのみ」利用企業が2020年では25%だったが、2020年には8%に減少したことである。代わりに、「マーケティングクラウドとスマートハブ」利用企業が17%から21%に増加、「3つ以上のCDP」利用企業が7%から17%にまで増えている。
「利用の仕方に応じて、複数のCDPが使われるようになってきています。一方で、企業によっては、『なぜ、同じCDPと名のつく複数のソリューションに投資しなければならないのか』という疑問を招く結果にもなっています」と川辺氏は指摘する。
もともとはマーケティング目的から始まったCDPだが、現在はマーケティング以外の部門でもCDPを利用するケースが広がっている。
営業部門の場合、たとえばBtoBの営業が顧客を訪問して営業する際、顧客が事前にどのような資料をWebサイトからダウンロードしているか、どのような問い合わせをしてきたかなどの履歴を確認することで、ステータスに合わせた準備をして、より高次な営業が可能になる。
商品開発部門の場合、顧客の動きやトレンド、抱えている問題を捉えることができれば、より便利に使えて、顧客の問題を解決できる商品の開発につなげることができる。
小売店舗・オンラインストアの運営においてはより高度なパーソナライゼーションやレコメンデーションが可能になるほか、カスタマサポートでは顧客の問い合わせ履歴に基づいて、より効率のよい、満足度の高いコミュニケーションができる。
「データ&アナリティクスのリーダーにとっては、特定の部門だけの便益を図るのではなく、企業全体のパフォーマンスを考えた取り組みが必要になってきます。そのため、CDP実装は、企業内の顧客データエコシステム全体との関連で評価すべきです」と川辺氏は話す。
そうなると、企業内の他のデータ管理テクノロジーや、データを活用するCXテクノロジーと、CDPの関係がどうなるのかが気になるところだろう。
エンタープライズ・データ管理のテクノロジーには、データハブ、データレイク、エンタプライズ・データウェアハウス(EDW)、論理データウェアハウス(LDW)、マスタデータ管理(MDM)などさまざまな切り口のテクノロジーがある。それらが得意とするのはデータの取得、品質、統合、データスチュワードシップの役割だ。
先述したCDPの主要な4つの機能、データ収集、プロファイル統合、セグメンテーション、アクティベーションに照らすと、これらのテクノロジーでデータ取得はできるが、それ以外の機能を果たすことはかなり難しく、現実的ではないといえる。
次に、CDPと関連するCXテクノロジーとの関係について見てみると、同意と選好の管理プラットフォーム(CPMP)、CRM、アイデンティティ解決、マルチチャネル・マーケティング・ハブ(MMH)、パーソナライゼーション・エンジンなど、CDPと似た機能を持つ製品は数多くある。
どれを取っても「これができるけれど、あれができない」という部分がある。また、MMHをすでに導入した企業にとっては、機能の比較だけを見るとCDPと重複する部分が多く、「投資してよいものか」という疑問が湧くかもしれない。
「エンタープライズ・データ管理のテクノロジーではCDPでやりたいことができないし、CDPだけでCX向上に必要な業務を完結できるわけでもない。この辺りが、混乱を招いている原因だろうと思います」と川辺氏は話す。
そして、「機能だけで見るのではなく、ビジネスの目的に沿って必要なソリューションを選ぶことが必要になってきます。ビジネスの成果を高めるユースケースが複数あるなら、機能がある程度重複していてもためらわずに投資すべきだと私は思います」と続けた。
機能の重複があってもCDPへの投資はためらうべきではないとする理由の1つに、川辺氏は「ソリューションは時間とともに成熟していくから」ということを挙げている。
では、成熟の形として、今後エンタープライズのデータ管理とCDPは融合していくのだろうか。あるいは、マーケティング・CXソリューションと一緒になるのだろうか。
川辺氏は「私がもしそう聞かれたら、『今までと同じ考え方での統合はない』といっておきます」と話し、今後のCDPのトレンドに関連するキーワードを3つ挙げた。
1)コンポーザブル
ブラックボックスや属人化、組織の壁(サイロ化)を解決するためのアプローチ。単にコンポーザブルなテクノロジーがあればいいわけではなく、たとえばマーケターとカスタマーサービスがCDPを使う場合、重複するデータや機能を切り分けて、コンポーザブルに組み立てていくことが重要になっていく。
2)コネクテッド
現状では、エンタープライズのデータ管理とCDPの統合は難しい。ただ、別個のものとしてつなげる、そしてその先の「実行」までできるところまでつなげていけば、CDPという製品の独立性は薄れるかもしれない。
3)コンバージド
集中型とも訳されるが、ユースケースごとに収束していく方向性だ。収束した複数のソリューションを並べてみると似た機能を内包しているが、目的ごとに専門特化した形で発展していく可能性はある。
「まずはいろいろなユースケースを洗い出して、優先順位をつけることです。そして、顧客データのニーズとエンタープライズのデータ管理のインフラを何らかの形で連携させていくことが必要になってきます。だからこそ、短期的には機能の重複があっても、私はやむを得ないと思います。常にビジネス成果を重視しつつ、ソリューションが発展していく動向もにらみながら、段階的に収束させていくアプローチが求められています」(川辺氏)
https://www.sbbit.jp/article/cont1/118827
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