ITS 編集部
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ガートナージャパンは11月13~15日、年次カンファレンスの「Gartner IT Symposium/Xpo 2023」を開催している。この中で、「今後3年間でビジネスに破壊的な影響を及ぼしイノベーションの土台となるトレンド」の最新版となる「2024年の戦略的テクノロジのトップ・トレンド」を発表。バイスプレジデント アナリストの池田武史氏が解説した。
2023年は、生成AIがIT業界だけでなく社会的なブームとなった。今回のイベントの基調講演でも生成AIがメインテーマになったが、同社では生成AIによって、「人とマシンの新たな関係を確信しデジタルが加速し始めた2023年」との見解を示している。池田氏は、生成AIが注目される背景には、DXやIoT、5G、デジタルツイン、クラウド、データアナリティクス、セキュリティといったさまざまなテクノロジーのここ数年における進化があると指摘する。
こうしたテクノロジーにより現実世界のあらゆるものがつながり、そこではデータが生成、蓄積され、企業はデータを用いてより良い意思決定や判断などを迅速かつタイムリーに獲得していきたいとする。戦略的テクノロジのトップ・トレンドについても、企業の最高情報責任者(CIO)らは、自社のビジネスの目的を適切に見据えた上で、テクノロジーの個々の特性を理解し、目的のために取り組むことが望まれるという。
2024年の戦略的テクノロジのトップ・トレンドは、「投資の保護」「ビルダー(開発者)の台頭」「価値のデリバー」の3つのテーマで、10種類のトップ・トレンドを取り上げた。「投資の保護」では、信頼性や安全性、ESG(環境、社会、統制)などが観点であり、企業としての持続可能性につなげるテクノロジートレンドという。「ビルダーの台頭」では、アプリケーションやサービスに関わる人材が効率的で創造的に活躍できるためのテクノロジートレンドで、日本に多い受託ベースの開発文化をどう創造的にしていくかも焦点になるという。「価値のデリバー」とは、これからのビジネスに求められる体験、また「マシンの顧客化」という動きにも触れた。
「投資の保護」テーマのトップ・トレンドは、「AI TRiSM(AI Trust, Risk, Security Management:AIの信頼性/リスク/セキュリティマネジメント)」「CTEM(Continuous Threat Exposure Management:継続的な脅威エクスポージャー管理)」「持続可能なテクノロジ」の3つになる。
同社のCIOに対する調査では、2021年に回答者の73%が「100以上のAIモデルを実行中」と答え、2022年では48%が「AI技術を展開済み」と回答、2023年3~4月の調査では45%が「AIの予算を増加した」と答えた。他方で、40%はAIのセキュリティやプライバシーの問題に直面したという。
生成AIについても、ユーザーの生産性向上といったメリットに対し、データ学習におけるプライバシーの侵害や偽情報の生成、バイアス、サイバー攻撃の悪用などの懸念事項も露呈した。池田氏は、AIを展開するに当たり企業が、これらの懸念を踏まえつつも展開に踏み切るか、あるいは止めるかの判断に直面していると指摘し、「AI TRiSMとはコンプライアンスの達成を容易にするものであり、透明性、コントロール、説明責任が重要になる。ベンダーなどが指針を整備したり、事例も出てきたりしているので、これらも参考になる」と解説した。
CTEMは、主にサイバーセキュリティの観点になる。現在の脆弱(ぜいじゃく)性管理は、パッチを速やかに適用するというのが基本原則だが、日々たくさんの脆弱性情報が公開されるようになり、この原則を実践することが難しくなっている。そこで、脆弱性そのものだけでなく、脆弱性がビジネスなどにもどう影響するのかといった点で評価し、リスクの高いものに優先して対応するのがCTEMになる。池田氏は、ビジネスとシステムの双方の視点で意思決定することが肝心だと解説し、CTEMを実践できればセキュリティの侵害リスクを3分の1程度に軽減できる可能性があるとした。
持続可能なテクノロジとは、ESGなどの観点で企業の持続可能性を支えるテクノロジーを指すという。2022年の同社の調査では、CIOの74%が「持続可能性がデジタルの成熟度を高める」と考えており、86%は「レジリエンス(被害などからの回復力)が高まる」と回答した。環境貢献や企業統治、社会の多様性といったテーマだが、「身近なところでは節電などもある」(池田氏)という。ただ、実際の企業活動には、成果を得るために環境資源の使用などを必ず伴うため、「負荷と成果」のバランスを考慮しなければならないとのことだ。
「ビルダーの台頭」テーマのトップ・トレンドは、「プラットフォームエンジニアリング」「AI拡張型開発」「インダストリークラウドプラットフォーム」の3つになる。
プラットフォームエンジニアリングは、近年, 特にウェブ領域の開発者で注目されている。「ソフトウェアのデリバリーとライフサイクルの管理を目的としたセルフサービス型の企業内開発者プラットフォームの構築と運用に関する取り組み」と定義され、開発者の生産性や効率性とユーザー体験やビジネスの成功の両立を図るアプローチでもあるという。ここでは、「プロダクトを作る」という基本的な感覚が大切で、受託開発などが多い日本のIT開発の現場では、浸透に時間がかかると見られる。池田氏は、「実際にはプラットフォームエンジニアリングのための環境を整備し、開発者を支える専任者が必要で、ハードルが高いだろう」と指摘している。
システムやアプリケーションの設計、開発、テストなどのプロセスをAIにより効率化したり自動化したりすることを指す。生成AIによるコード生成手法などが既に登場しているが、企業ではAI拡張型開発の環境を整備し、優秀なエンジニア人材の確保、維持を目指すことになる。
業界に特化したクラウドプラットフォームを指す。クラウドの企業導入が進み、業界固有の規制や商慣習などの要素を考慮したクラウドの仕組みが登場しており、同社によれば少なくとも270種以上が存在し、今後さらに増加していく。究極的には、企業の自社専用クラウドプラットフォームのようなものに発展する可能性もある。業界特化型クラウドのコンセプトは、日本ではかつてシステムインテグレター(SIer)各社が表明したが、現状では「絵に描いた餅」でとどまっていると池田氏は指摘。「クラウド時代を見越した提案だったが、将来を見据えてのモデルの提示は難しい。ユーザーからの小さい個々の要件の実績を積み上げていくべきだが、ビジネスとしても小さいので、SIerが手を出しにくいという課題もある」と解説している。
「価値のデリバー」テーマのトップ・トレンドは、「インテリジェントアプリケーション」「生成AIの民主化」「拡張コネクテッドワークフォース」「マシンカスタマー」の4つになる。
機械学習やベクトルストアー、コネクテッドデータなどのAIベースの多様なサービスから得られる洞察などにより、効率性や自動化、迅速かつ最適な意思決定などを支えるアプリケーションとなる。アーキテクチャーにAIを組み込むことによって、コンテキストに応じたさまざまな適用可能な体験をユーザーに提供するという。「そのためにはサービス、データの積み重ねが必要になってくる。積み重なったものが、価値としてつながっていく」(池田氏)
だれもが生成AIを容易に扱えるようになることを指す。既に進んでいる動きでもあり、生成AIで指摘されるマイナスの面が生成AIのメリットを損なわないようにすることが肝心となる。
ワークフォースとは従業員を意味し、デジタルによってつながった従業員が、個々の従業員の特性や状況を踏まえながらも、チーム(組織)としてより生産的な活動を可能にしていくテクノロジーを指す。池田氏によれば、反復型の作業や24時間の監視といった業務は、既に人間が行うよりもテクノロジーの方が圧倒的に優位で、人はもっと人に寄り添う業務に専念できることが期待されるという(ただ、実際にはそれが苦手な人もいる)。
マシン(コンピューターなど)が人間に代わって顧客になる時代が来る。例えば、消費者向けサービスの運用を人ではなくマシンが行い、障害対応などもマシンが自動実行するようになれば、ソリューションベンダーは、人が相手ではなくマシンを相手(=顧客)として対応することになる。マシンカスタマーのための新たなプラットフォームが求められる。また、人の感情に訴求するようなことができないため、単純な価格が条件になることもあり得る。マシンカスタマーのための新たなプラットフォームには、ベンダーとしての信頼性も問われてくるという。
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